私たちの薬局では、昔ながらの知恵を活かして漢方の軟膏をひとつひとつ手作りしています。
街の薬局で作ることができる漢方の軟膏は二種類あり、そのうちの1つ中黄膏は美しい黄色が、いかにも炎症を鎮めてくれそうな軟膏です。
(前回の中黄膏と華岡青洲についてのお話はコチラ⇒https://benibana-kanpou.com/news/2430.html )
もう一つは中黄膏と同じく古の知恵に学んだ紫雲膏です。
今回はその紫雲膏に焦点を当ててみましょう。
紫雲膏は、その名の通り赤紫色が美しい軟膏。見た目にも癒やされるやさしい処方です。
紫雲膏は江戸時代の名医華岡青洲が創薬した漢方軟膏で、構成生薬の「紫根」と青洲の通称名「雲平」が紫雲膏の名前の由来と言われ、現在でも「一家にひと瓶」の常備薬として頼りになる優秀処方です。
★こんな方に
ひび、あかぎれ、しもやけ、あせも、ただれ、かぶれ
外傷 火傷
痔の痛み、肛門裂傷
魚の目 など、様々な皮膚疾患にお使い頂けます。
★紫雲膏の主な成分
紫根(シコン):ムラサキの根
清熱涼血、解毒作用があり、発疹や傷の治癒に役立ちます。
当帰(トウキ):トウキの根
補血、強壮、鎮痛、鎮静作用があり、婦人病などの漢方薬に配合されています。
当帰の名前の由来には、婦人病を患った妻が夫が家に寄りつかなくなったので、この薬草を煎じて飲み、回復した時に「恋しい夫よ、当(まさ)に家に帰るべし」と言ったという中国の伝説も。
★紫雲膏エピソード
エピソード1:火傷にすぐ対応できた安心感
閉店間際、「油で火傷をした!」とエプロン姿で飛び込んできた女性。
すぐに冷却と紫雲膏の処置をお伝えしたところ、翌朝「水疱もできず、痛みもなくて助かりました。」とわざわざお礼に来て下さいました。べにばな薬局で作った記念すべき第一号の紫雲膏でした。
エピソード2:痛い魚の目にも効果を発揮
「魚の目が痛くて歩けない。」とお悩みの方。
痛いのでゆるゆるの靴を履いて、足骨格のバランスが崩れています。足骨格のバランス調整を指導しながら紫雲膏を患部に貼って頂きました。「魚の目取れました!」と取れた点のような魚の目を見せに来られました。
その3:乾燥肌を優しく保護
潤す作用があるので、乾燥しやすい唇の保護や割れた唇の修復、カサカサ肌のアトピー製皮膚炎やナイトクリームとしてご愛用の方も。
★紫雲膏作りは温度管理が重要!
「ごま油を煮て、そこへミツロウと豚脂を入れて溶かし、次いで当帰を入れて香ばしい香りがしたら、紫根を加え鮮明な赤紫色になったら速やかに火からおろし、布で漉して冷却して軟膏とする」と薬局製剤指針にはあります。
書くと簡単なようですが、実は紫雲膏作りは温度管理が大変なのです。
紫雲膏の鮮やかな赤紫色は、紫根に含まれる天然色素「シコニン」によるものですが、この美しい色は熱にとても敏感。
温度管理を誤ると、せっかくの有効成分が変性してしまい、色も効能も損なわれてしまいます。
抽出中は、油が赤紫色に染まっていく様子を観察します。香ばしい香りがたち、色がしっかり出たらすぐに火から外すのがコツ。温度管理と共に五感を使った見極めも大切です。
★昔の人はどうやって温度管理をしていたのでしょう。
江戸時代の紫雲膏作りでは、現代のような温度計は当然ありません。
「昔の人はどうやって繊細な温度管理をしていたのかなぁ」と、私は温度計とにらめっこしながらいつも考えていました。
恐らく、それは職人の五感と経験によるものだと思います。
- 色の変化で判断
紫根を油に入れたときの色の移り変わり(赤紫→濃紫)を目で見て、抽出の進み具合を判断していた。 - 音や香りで見極め
油が加熱されると香ばしい香りが立ちます。これらを頼りに、火加減や抽出のタイミングを調整していた。 - 肌感覚で温度を測る
油の温度は、指先や竹串を使って「熱さの質感」を確かめることもあったようです。湯加減を手で測るような感覚ですね。 - 火の種類と距離で調整
薪や炭火を使い、火元との距離や火力の強さを調整することで、間接的に温度をコントロールしていた。 - 経験の蓄積
何度も作る中で「この色になったら火を止める」「この香りが出たら抽出完了」といった身体に染み込んだ知識、経験がまさに「職人技」。温度計以上の精度を生んでいたと思われます。
昔の人はきっと、色、音、香り、肌でタイミングを計っていたのでしょう。便利な世の中になって現代人が失ったもの、昔の人の感覚は本当に鋭かったんだと感動します。
私たちは開業以来、手作りにこだわって紫雲膏を作り続けています。
江戸時代の職人技には達していないかも知れませんが、おかげさまで口コミやリピーターも増えて感謝です。
時代を超えてあなたのお肌の悩みに、生薬の力と手仕事のぬくもりのある紫雲膏をお役立て下さい。
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